・疑似エーテル

 さて、疑似エーテルの考え方に触れる前に、仮想力線電磁気学における『力線』や『(
電磁)場』の扱いについて説明しておこう。
 仮想力線電磁気学では、『力線』や『場』というものを、『仮想的なもの』とする。つ
まり、『実在性あるもの』とはせず、『問題を考えるための道具』とするのである。これ
は、ちょうど『座標軸』や、流体力学における『流線』のようなものだ。
 それはともかく、『仮想的』といっても、マックスウェル電磁気学のような近接作用理
論におけるすべての『場』あるいは『力線』というものを、仮想的なものとして、その存
在意義を認めるわけではない。仮想力線電磁気学が(仮想的なものとして)存在意義を認
める電磁場は、次の二つである。

 (1) 電荷からわき出している電気力線。すなわち、電荷の存在によって生じる静電場。

 (2) 電荷(からわき出している電気力線)が運動する(横切る)ことによって生じる磁
   場。

仮想力線電磁気学が認めるのは、この二つだけである。これ以外の電磁場は、仮想的にす
ら存在意義を認めない。したがって、たとえば、(2)の磁場から誘導されるような電場は、
仮想的にすら存在意義を認めない。そこに作用を受ける電荷があって、はじめて存在意義
がある。もし電荷がなければ、電場は存在せず、そこから磁場が誘導されることもない。
 こうした考え方は、場は単位電荷(磁荷)あたりに働く力にすぎないという考えに基づ
いている。しかし、だとすると、次々と電磁場が誘導されて電磁波が発生することはない
ということになってしまう。そこで重要なのが、『疑似エーテル』という概念である。
 わかりやすい例として、下図のような問題を考えよう。



四つの等しい電荷が横一列に並んでおり、一番左端の電荷Aが振動した時に、残りの三つ
の電荷がどのように振る舞うのかを考える。今、電荷Aが下図のように変位したとする。



すると、電荷Aの運動によって、電気力線の移動が起こる(電気力線が横切る)ので、磁
場が生じる。この磁場は電荷Aの運動とともに変化するので、磁力線の移動が起こること
になる。そうすると、磁力線が横切ることになるので、電荷B〜Dに電気力が働く。した
がって、これらの電荷も同じ方向に変位する。
 ここで気付かなければならないことが二つある。一つは、この誘導によって生じる電気
力は、電荷Aの相対運動によって生じるということである。加えて、各電荷は質量を有し
ている。このため、電荷B〜Dは電荷Aよりも遅れて動く。
 もう一つは、より近い電荷ほどより大きな力を受けるということである。したがって、
電荷Bが最も加速度が大きく、電荷C、電荷Dの順で小さくなる。
 以上のことから、下図のようになる。



さて、電荷Aの速度は減少に向かうが、今度は電荷Bの速度が大きくなっているので、す
ぐ近くの電荷Cが電荷Bからの加速を受ける。



電荷Bの速度は減少に向かうが、電荷Cの速度が大きくなっているので、すぐ近くの電荷
Dが電荷Cからの加速を受ける。



こうして、次々と作用が伝わっていく。
 これは、まるで近接作用のようである。電荷Bと電荷Cは、あたかも電荷Aから電荷D
に作用を伝える媒体(エーテル)のような働きをしているのがわかるだろう。電荷Bと電
荷Cのこうした働きを、仮想力線電磁気学では『疑似エーテル』と呼んでいる。そして、
疑似エーテルによる近接作用的な現象を、『疑似近接作用』と呼ぶ。
 さて、ここでもう一つ気付かねばならないのは、疑似エーテルの働きをする電荷(上の
例では電荷Bと電荷C)が、必ずしも作用を及ぼすものと及ぼされるものとを結ぶ線分上
になくてもよいということである。これは、すでに述べたように、遠隔作用では、作用を
及ぼすものと及ぼされるものとを結ぶ線分上以外の物質の影響も受けるからである。つま
り、周りに存在するすべての物質が疑似エーテルの働きをするのである。真空でも(疑似)
近接作用的な現象が生じる理由が、これで理解できるだろう。
 このように、近接作用的現象は、遠隔作用によって合理的に説明できるのである。

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